桂苓丸料の加味方が奏効した汗管腫

患者は30歳、女性。小学生(約23年前)の頃から、目のまわりに汗管腫が出来始め、だんだん広がる傾向を示したので、皮膚科を受診ししたところ、これは治らないと言われました。そこで漢方治療を希望し、1992年(H4年)9月8日に当院に来院しました。
身長153.6cm、体重46kg、血圧106/68、便通は1日に2〜3行、排尿回数は日中5〜6回で夜間尿なし。口渇なく、発汗は普通、目まいや立ちくらみなし。睡眠・食欲も普通。手足が冷えやすく、肩凝りし易い。生理は順調で、時に生理痛がありました。脈候はやや沈・小・弱、舌候は湿潤して微白苔あり、腹候は腹力中等度で、胸脇苦満はなく、両腹直筋の攣急は軽度、臍傍の圧痛点はありませんでした。初診時の皮膚所見としては皮膚は乾湿中等度で、目のまわり、上腕、前腕、手、胸部、腹部、大腿などに。汗管腫特有の皮疹が認められました(写真参照)。
全体像から判断して、「にきび」の治療によく使用する桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁を基本薬方として選定し、排膿や腺分泌の亢進作用のある桔梗を追加した薬方を処方しました。これは、汗管腫では、真皮内汗管の異常な増殖があって、管内の液の出口がないような状態であるので、腺分泌を増強させ、管内の圧力を高めて液の出口を自然につくらせてしまえば、一つ一つの汗管が壊れてしまい、やがてそれが、萎縮していく可能性を期待して処方したものです。
経過途中で、扁平隆起性の小丘疹の中で、上部に白い細毛のようにもりあがってくるものが、多数見られました。それらが、自然に壊れていけばいいわけなので、治療としてはうまくいっていると考えられました。処方は同一薬方で経過観察しました。
初診時より約2年7ヶ月後(1995年4月18日)に来院した時、上述の小丘疹の白い細毛状の盛り上がりは以前より目立たなくなってきました。そこで、更に腺分泌を増強するために枳実を追加して処方しました。
初診時より約3年後(1995年9月26日)に来院した時、皮疹は必ずしも良くなっているとは言えない状態でした(写真参照)が、まだ良くなる可能性もあるため、同一薬方にて経過観察しました。
初診時より約6年後(1998年9月1日)に来院した時、皮疹は全体的に薄くなり、数も少なくなってきていました(写真参照)。
初診時より約9年後(2001年7月24日)に来院した時、皮疹は更にに薄くなり、数も少なくなってきていました(写真参照)。
その後、皮疹は同じような状態ですが、現在もなお、継続治療中です。
成書によれば、本疾患は、優性遺伝によるとされています。いわば奇形の一種と同じようなものなので、皮膚科では治らないものと言われたのも当然と思われますが、本症例のように完治には至らなくとも漢方治療にて改善傾向を示すこともあるし、特に気になっていた目のまわりが、本人も喜ぶ程度に改善してきたことなどを考慮すると西洋医学では難治性の疾患でも漢方治療をやってみる価値は多分にあると考えます。
また前回の症例(霰粒腫)の脂肪の排出のときも同様ですが、桔梗だけの時よりもそこに枳実を追加した時の方が、白い細毛状の盛り上がりはより一層、多くなったように思われます。すなわち、桔梗・枳実の生薬複合物は様々な疾患での腺分泌や脂肪排出作用を強く促したい時に考慮すべきものと考えます。
目 周 り 左 手 甲  
左上腕内側 右上腕内側 右上腕内側拡大

初診時 1992.09.08
約3週間後 1995.09.26
約6年後 1998.09.01
約9年後 2001.07.24

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